コンクリートの屋上は、非常に暑い。
そんな暑い中、珠希は恵一に文句を言い続ける。幽霊に汗腺など無いだろうが。
「恵一くんはなってません。私というものがありながら、他の子に目が行くだなんて。」
(うぅーむ、暑いぞ。)
「あぁ、もしかしてああいう子が好きなんですか?」
恵一は熱に耐えるので精一杯。珠希の言葉を聞く余裕は無かった。
そんな中、校舎から間延びしたチャイムが鳴る。昼休みに入ったらしい。
「いいですか?私が正妻という事を忘れなく…。」
そんな事は構わず未だに珠希は喋り続ける。
恵一が適当に話を切ろうとした時、屋上に人の来る気配がした。
「…あ、ここにいた。」
珠希が嫌そうな顔をする。
その人物は八夜みこ。恵一が屋上で熱射病になりそうになっている発端の少女である。
「…暑くないの?」
「暑い。もう汗も出切った気がする。」
「…体に悪いから、こっち来た方がいい。」
みこは恵一の腕を引っ張り校舎の中へ連れて行く。
勿論珠希はいい顔で無い。
自分の話を聞かず、みこの言葉にはすぐに反応して見せたのだから当然だろう。
「…大丈夫?」
ちょうど風の通り道になる場所に連れてこられた恵一は、座り込んでみこを見上げた。
「…具合悪い?」
心配そうに困った顔をするみこに、何を言っていいのかわからず視線を逸らしてしまう。
「あーぁ、青春なんかクソくらえ。」
その隣りでかなり凶悪に顔を歪めた珠希が毒づく。
「あはは、八夜、もう大丈夫ありがとう。しばらく一人にしてくれないか?」
「…無理してない?」
なおも心配そうなみこに手を振る恵一。
みこが見えなくなってから珠希に振り向く。
「言葉が悪いぞ、タマ。」
頬を引きつらせ、咎める。
「…。」
珠希は再び無言の人となる。
(ったく、なんなんだよ。嫉妬にしてもひどいぞ?)
そもそも、恵一はみこの事を殆ど知らない。
ちょっと話した程度でこうも不機嫌になるのなら、日常生活を送れないではないか。
恵一はそんな様な事を考えながら珠希を見る。
珠希はといえば、かなり真剣に何かを考えている様であった。
不穏な空気を感じながらも、恵一は何も言う事が出来なかった。
ここまで黒いオーラを放つ珠希を見るのは初めてだったから。