らぶふぁんとむ18

あこん  2007-06-17投稿
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料理というものは、生活に密着した趣味である。
そんな持論で恵一は台所に立つ。
「タマー、手伝ってくれるかー?」
居間、というか寝室というかワンルームでくつろぐ珠希に声を掛けた。
幽霊がスピリチュアルなテレビ番組を見ているというのもシュールな光景である。
「はーい。」
テレビに集中していた訳でもなく、珠希はすぐに恵一の元へやってくる。
「上に小麦粉が入ってるはずなんだ。」
「なんか高い所から物運ぶ仕事ばかりですね。」
文句という訳でもなく、ぽつりと呟きながら珠希は空中に浮かぶ。
「高所作業に適した体じゃないか。」
鶏肉の下拵えが済んだ恵一は珠希を見上げる。
「そういえば今日はなんなんです?」
「牛乳がギリギリだったからな。ホワイトソースにしちゃって、まずはグラタンにでも。」
ほあー、と感嘆の声を上げながら珠希は小麦粉の袋を引っ張り出す。
「ん?」
「はい?」
恵一が珠希の二の腕の辺りに注目する。
今まで制服を着っ放しだったので見えなかった部分だ。腕を伸ばした事でちらりと覗く。
「…痣?」
というよりは打撲の後か。
「…あー、落ちた時に打ったんだと思いますよ。こんな痣無かったはずですし。」
珠希は制服の袖を捲って自分の左腕を見る。
「…痛そうだな。」
「今は痛くないですけどね。はい、小麦粉。」
「おぅ、サンキュ。…生前の傷って幽霊になってもあるんだな。」
恵一はこの話はここまでにして、ソース作りの為にバターを溶かし始めた。

「おいしそーですねー。」
「…食ってみるか?」
「口に入れた端から床に落ちてもいいなら。」
「じゃ、我慢してくれ。」
大量に作ったグラタンは4つに分けてある。これから数日はグラタン三昧だろう。
「本当に料理上手ですよね。」
「…普通だと思うが。」
「和洋中全てに精通した男子中学生が全国に何人いますか。」
実の所、ロシア料理なども恵一は作れる。他人に作った事はないが。
少し照れくさそうに恵一が頭を掻いて、グラタンにスプーンを入れる。
「やっぱり、食べてみたいですねー。」
チーズとパン粉の焦げた面を見て、珠希は小さく呟いた。珍しく憂いを帯びた表情で。
恵一は、何も言う事が出来なかった。



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