ヤス#73
「母さん、もう少しだからね。頑張るんだよ」
「うん…大丈夫
ヤスは山の斜面を登っていった。柔らかい土に足をとられそうになりながらも大地をしっかりと踏んだ。
ユウキの下に着いた。
「母さん、着いたよ。ここで戦うんだ」
「ああ…とうとう来たのね」
「うん。さあ、着ているものを脱がせるよ」
「うん…」
純子の体は肉が削げ、痩せこけていた。
ユウキの下に寝かせると、塩を木の周りに円を描くようにまいていった。そして、その円の中に納まると、ヤスも着ている服を脱ぎ捨てた。
右手にアイノツブテを握り締めて純子の脇に正座した。
ハヤトはユウキの根元で伏せていた。
「母さん、分かっているね。俺と母さんの愛しあう姿をシットに見せつけるんだ。サトリが言うには、俺達の愛が深ければ深いほど、シットは己の情念で焼け滅びる。そして、このアイノツブテで止めを刺す。もし、俺達の愛がシットの情念に負ければ、二人とも海のモクズになるんだよ。何があっても負けては駄目だよ」
「ええ…ヤス。私がヤスを愛する気持ちはシットなどには負けません」
「俺もだ。母さん、必ず守ってやる」
「ヤス…愛しているわ」