らぶふぁんとむ20

あこん  2007-06-18投稿
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「話、って?」
珠希の声に、不穏なものを感じ取って、恵一の声は震える。
「…私は、幽霊です。」
「知ってるよ。」
「一ヶ月前に死にました。」
「うん、知ってる。」
買ってきた指輪の片割れを握り締める。
「…本来なら、私は天国へ送られるはずでした。…天国、のような所へ。」
「成仏する、てことか?」
「…みたいです。…私を連れに来た死神の人に私は言ったんです。好きな人に、気持ちも伝えてないって。」
これは、初日に聞いた事だった。その時は流してしまったが。
「…強い後悔があると、後々問題になる、らしいです。」
恵一は珠希が間を取りながら話しているのに気付いた。
「…どうなるんだ?」
「…人間には、関係ない、って。」
「珠希、そこに誰がいる?明らかに聞きながら話してるな?」
珠希の肩が揺れる。
「…死神の人、です。」
恵一の目には、一切見えない。
「そうか。」
珠希は窺うように斜め後ろを見上げる。そして気付いたように時計を見た。
「…恵一くん。さっきの話に戻ります。死神の人は私に猶予をくれました。期間付きで。」
少し口調を早めて珠希が言う。
「おい、まさかその期間って。」
「一ヶ月です。」
恵一の握っていた手が解け、指輪が落ちる。
「さっき、迎えが来ました。…私は、回収されるそうです。」
もう恵一に、口を開いて言葉を発する気力は無いように見えた。
「…もう、時間です。」
珠希は立ち上がって窓枠に立つ。
「…珠希?」
弱々しくも恵一は音を発する。
「恵一くん、さよならです。」
珠希は笑っていた。涙を押し殺して。
「珠希!」
珠希がいなくなる。
無意識に恵一は叫んでいた。
「恵一くん…。」
「珠希!」
恵一は必死に腕を伸ばす。
窓の外に浮く珠希の姿が、薄くなり始める。と同時に、珠希の傍らに黒いもやのようなモノが現れた。
「…恵一くん、約束してください。」
「何をだ!?」
「会いに行きますから、また来ますから、待っててください!」
「当たり前だ!待ってる!ずっと待ってる!」
二人で叫ぶ。
「恵一、くん、好き、でした!」
珠希が涙を流し、
「…俺もだ!好きだ、珠希!」
恵一は喉が裂けんばかりに叫ぶ。
珠希は笑顔を残して完全に消えた。もやも消えている。
残ったのは、涙を流す恵一と、部屋に転がる指輪だけだった。



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