王子は朝の光が眩しく降り注ぐ校庭の中心に立った。
由香とリュクスは王子から少し離れた場所でそれを見ていた。
王子の足下には粉々に割れた鏡の破片が一まとめにされていた。
まもなく、校庭の中心にゆるい風が巻き起こった。
王子の銀の髪が空に向かって舞い上がる。
王子の周りに吹く風に乗って鏡のカケラが輝く光の帯となって宙に舞い、王子の周りで螺旋を描いた。
…ゆっくりと、光の帯は昇り、そして空へ吸い込まれて行く。
由香はこんなに不思議で、そして綺麗なものを初めて見た。
一瞬、由香の瞼に彩の笑顔が浮かんだ。
自然と由香の頬を涙が伝った。
「…終わった。」
王子が瞳をゆっくり開いた。
奇跡のような風は止んでいた。
「彩…、何処へ行ったの?」
「冥界。この世では鏡の中にしか居れない者も、冥界では解放される。」
「あの…王子、ありがとう。」
由香が恐る恐る言うと、
王子はクスッと笑った。
「礼には及ばない。由香、お前の運命半分は、既に俺の手にある。」
そう言うと王子の長い指が由香の小さな顎をすっとすくい取り、由香の頬には王子の冷たい頬が触れていた。