鬼門22
鬼の雄叫びが天を衝いた。薬師院大光明は関孫六を携えると鬼を見据えた。
「改めて見るとでっかいの…何喰ったらこんなんなるんじゃ」
鬼の剛腕が大光明に降り注いだ。その衝撃は大地を穿った。しかし、拳の下に大光明の姿はなかった。鬼が辺りを見回した。
「ここじゃ!」
暗闇に一瞬の煌めきが走ったかと思うと鬼の巨大な腕が地に落ちた。鬼は苦しみの悲鳴を上げ、辺り構わず暴れ始めた。大光明の姿が暗闇に浮かんだ。
「雷帝因陀羅!」
印を組んだ指先から雷撃が放たれた。雷撃は鬼を撃ち据えその体を焦がした。
「お次は…」
大光明が印を組み替える。
「軍茶利明王、火焔蛇!」
大光明の周りに炎がたぎり、その炎が蛇のようにうねり鬼の体に巻き付いた。
「呪符もなしに…術を使うなんて…」
蔵王丸が絶句する。巨大な体躯を誇る鬼ですら、すでに大光明の力に圧倒されていた。
「そろそろ三枚におろすか」
大光明は関孫六の刃を指先でなぞり、その刃を鮮血で輝かせた。大光明が真言を唱え始める。すると空気が変わり、その口が吐き出す一言一言が空に浮かび、その力を誇示しているように光った。
「偉大なる天の剣神、摩利支天の力を我が関孫六に付加させる!」
関孫六の刀身が真っ赤に燃え上がり太陽の如く輝いた。
「これぞ!摩利支天武具加持法による奥伝!」
大光明は飛び上がり鬼の脳天目掛け、燃え盛る関孫六を振り下ろした。
「太陽剣!」
鬼の絶叫が辺りに響く。太陽のような輝きが暗闇を跳ね飛ばし、真っ二つに斬り裂かれた鬼の体がその輝きにのまれるように消えた。
「これで治ったじゃろ?」
大光明が蔵王丸の傷口から手を離す。可王に深々とつけられた傷が跡形も無く消えていた。
「すごい…」
蔵王丸が驚嘆の声を上げる。大光明が自慢げに笑った。
「薬師院の名は伊達ではないわい。次はお前じゃ」
大光明が幸司の方に近づいた。そして傷口に手を翳した。