水面を見ると、黒い圧倒的な質量をもった何かが通り過ぎていった。「出たぁ!」
「網だ!網をしっかりつかむんだ!」
「はいっ!」
俺達は網を持っていかれないように全力で掴んだ。しかし、怪物は俺たちの予想に反して、なにもせずにボートから遠ざかっていった。俺達は為すすべもなくただそれを見送った。
「それにしても大きかったですねぇ、アレ。」
「だけどどうして俺達のボートを素通りしていったんだ?」
海から帰った俺たちは海の近くにある民宿の食堂で夕飯を食べていた。
俺達が出会った「怪物」は優に100メートルはあった。とても生物の尺度で測れるものではない。
「鯨だったんだじゃないですか?」
「クジラにしたってデカすぎるだろう。それに、この近海には網を食いちぎれるような鋭い歯を持った、たとえばマッコウクジラのような、種類は生息していないはずだ。」
「わかった!入れ歯をしてたんですよ。」
「おまえの頭はただの味噌かよ…。」
とにかく、まだ情報が少ない。俺は聞き込みを続行することにした。