らぶふぁんとむ21(完)

あこん  2007-06-20投稿
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「まさか恵一が十五も年の離れたお嫁さんを貰うとはね。」
もう二十年以上の付き合いになる日村孝太が関心したように言う。
「…そうね、私がアプローチした時は軽くあしらったくせに。」
同じく二十年近く友人を続ける八夜みこが続ける。
小野瀬恵一は苦笑して二人の友人に紅茶を出す。
「まぁいろいろあってな。式も挙げてないし。」
報告が遅れた事を申し訳ないという気持ちで恵一は笑う。
指には、安物の指輪がはまっている。
「しかし、恵一の料理が毎日食べられるんだから彼女も幸せだね。」
「…そうね、おいしいし。」
「…冷やかすなよお前ら。」
二人の言葉に、恵一は照れたように頬を掻く。
「…ちなみに何がお気に入り?」
「グラタンがすごく好きだそうだ。すごく感動していたのを覚えてる。」
聞かれるのが嫌じゃないのか、恵一はみこの質問にしっかりと答えた。
「恵一はねー、女の子と付き合ったりしなかったから、そっちに興味が無いんじゃないかとハラハラしたもんだよ。」
「笑えねぇな。」
「全くだよ。」
皆で笑う。
数年ぶりに集い、談話を楽しんだのだった。

孝太とみこを見送り、恵一は自宅に帰る。
二十年前のワンルームなどではなく、3LDKのマンションだ。
自室に入り、机の鍵付きの引き出しを開けた。
中には、シャープペンやノート等、二十年前の品が収まっている。
それを見て、恵一は顔を綻ばせる。
(珠希…。)
ノートを開くと、少女の幽霊との一ヶ月が会話文として記されている。
恵一はノートを閉じて、引き出しにしまった。
(あの一ヶ月を、俺は忘れないよ。)
そして、鍵を締めた。

「あ、恵一さん。お友達は?」
妻となった女性が台所に立っていた。
「…お前、塩と砂糖間違える天然記念物の癖に料理するつもりか?」
「た、たまにはさせてくださいよ!」
六月の始め頃、珠希と初めて会った日に籍を入れた。
「ほら、お皿取って。」
女性は恵一の物と同じ指輪をはめている。
「はい。」
「サンキュ、珠美。」
珠美の左の二の腕には、痣があった。

恵一は幽霊を見る力など無い。
あの時の恋する幽霊は、約束通り会いに来たのだろうか。
恵一にそれを確かめる術は無いが、ずっと待ち続ける。
また、偶然会う事があったなら、恵一はこう言うつもりだ。

「これって浮気か?」



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