その夜鳴りもしないだろう、携帯電話の電源を切った。
着信拒否もいいんだろうけれど、こちらからメールしたくなってしまうのだから、困ったものです。この携帯から、彼のデートのドタキャンの下手な言い訳を聞くのは、もう沢山だから。
鳴らない携帯電話を、一人のベッドでながめながら、出会った瞬間の、あの一瞬を思いだす。
「良かったらお茶でもどうですか?」
パーティーで彼を一目、見た時から、私は、そんな誘いを待っていた。
好みの人?違う…彼のもつ空気が、二人の目が合った時の、燐とした、あの透明にすら近い空気が、私の心を緊張させた。
今、この瞬間、彼の腕の中には、他の誰かが眠るのかしら?
もう、決して誰も愛さないし、恋に永遠は期待しない。だから私は、彼を忘れるために、擬似恋愛を探して回った。愛していない人でも、酔って抱かれたら、目を閉じたらその人はひととき、「彼」だった。そんな事をして、彼を忘れる癒しは割りのいい売春でさえあった。
そこまで痛みを全身で感じながらも、また今夜も、携帯電話をベッドサイドに置いてねむりに着く。一人のダブルベッドで、一人で自分の肩を抱いて…