由香の体中が熱くなった。一気に熱が上がったような感覚に由香はクラクラする。
「んー、お前やっぱり、匂う…。」
王子の声が由香の耳元でいたずらっぽく響いた。
「…香、由香!大丈夫?何やってんの!?こんなところで。」
心配そうに由香の肩を揺さぶるクラスメートの姿に由香はようやく我に帰る。
「あ…ここは?」
やはり夢だったのだろうか?
どうやら、由香は更衣室前のベンチで少しの間眠っていたようだった。
「行くよ、由香。ホームルーム始まっちゃうよ。」
「うん、すぐ行くね。」
その後になって、
由香は更衣室の鏡が突然なくなったと聞いたのだった。
「…はぁ…。」
由香は溜め息をついた。
「由香ちゃん、恋煩い?」
「…えっ!?違いますよ。」
由香は慌てて首を振った。学校の帰り道にある小さな和菓子店。
部活のない日に由香はこの店でバイトをしていた。
手作りの羊羹や色とりどりの練り菓子が並ぶ店内で、おかみさんにからかわれながら由香は屈み込んでショウケースにお菓子を入れていた。
ショウケース越しに見たことのある、コバルトの瞳が見えた。
由香はびっくりして立ち上がり、その勢いでお菓子を数個落としそうになる。