「ちぃちゃん、放して…!」
俺は水城ちゃんの後を追おうと、ちぃちゃんの手を放そうとする。
だけど、彼女は決して放そうとはしなかった。
「やだ!あの人を追うつもりでしょ?絶対させない」
「ちぃちゃん!」
少し、きつく言うと涙目になって、
「何で?碧、変わったよ。前は私の事、一番に考えてくれたのに!」
しがみ付いた腕が震えてる。
「ごめん、ちぃちゃん。あの頃の俺とはもう違うんだ…」
話ながら彼女の髪を撫でる。
ちぃちゃんは、昔から泣き虫で、決まって俺が髪を撫でると落ち着くんだ。
暫く黙ってた彼女が口を開いた。
「知ってたよ…」
「え?」
「碧が私に優しい理由…」
長い睫毛を濡らして、淡々と語る。
俺の母さんは昔から病気がちで親友でもあった、ちぃちゃんのお母さんにずっとお世話になってた。
それが引け目になってたんだと彼女は言う。
「もう、いいよ…。好きにすれば!?」
目が赤い…。
ちぃちゃんは、俺の腕から離れると拗ねた様な顔を見せた。
(ごめん、でも俺が今一番大切にしたいのは…目の前の彼女じゃない)
「ごめんね…」
そう言って、彼女の頭をポンと軽くたたくと、水城ちゃんが消え去った方向へ駆け出した。