1997年1月12日
午前2時30分
この旅館の長い歴史を感じさせる古き趣のある和室。
日中スキーを楽しんだこの父、母、息子の3人家族は疲れてぐっすりと川の字となって眠っていた。
しかし川の真ん中に寝ている八歳の弘野敬介はもじもじと体を揺らした。
(まずい…おしっこもれちゃう…)
尿意によって目を覚ました敬介は布団から飛び出してて部屋の入口にあるトイレへと向かった。
静寂と暗闇に内心びびりながらも、敬介はトイレへと向かった。
トイレに入ると、突如便意が襲って来た。
(あっ…大も出そう…)
10分後…
敬介は尻を拭き終えて、流そうとしたその時、外から母親の悲鳴が聞こえた。
「嫌ぁあぁあぁぁ!!!」
「純子!!しっかりしろ!!!
おい!!!」
続けて聞こえて来たのは父親の声。
八歳の敬介でも和室で何か非常事態が発生していると理解できる。
「あの子…あの子は何処なの…?」
続いて聞こえて来たのは見知らぬ女の声。
「お前…純子をよくも!!」
父親の怒声が響いたがその直後何かに激突する様な音が聞こえた。
「言いなさい…さもないと…」
「がぁっ…あっあぁ!!やめぇ…」
女の氷の様に冷たい声が聞こえた後、父親の悲鳴が聞こえて来た。
「おっ…お父さん?」
敬介は父親の身を案じたのか震える小さな声でそう言うと父親の呻き声がピタリと止んだ。
「そこに居たのね…隠れたってダメよ…」
そう女が言うと、ギシギシと足音が近付いて来る。
そして足音はトイレの目の前で止まった。
(そうだ…鍵を架けてるから開けられるはずなんてない…)
しかしカチャッという音がしてドアが開いた。