ヤス#80
シットは赤い口を最大に開くと、二人を喰おうと迫ってきた。
「ぐぅあーーーっ!お、おのれーっ!」
今だ!
ヤスは振り向くと、手のひらに握り締めていたアイノツブテをシットの顔めがけて投げつけた。
二つのツブテはシットの両目をえぐった。えぐられた目が炎で包まれた。
「ぐぅあー!焼ける!目が焼けるーっ!」
突然、ハヤトが跳んだ。
ハヤトは凄まじい跳躍力で飛び上がるとシットの喉元に食らいつき、喉を食い破った。
真っ黒な血が噴き出すと、血は下には落ちず、渦を巻いて天高く舞い上がっていく。
シットは何度も、もんどりを打って空中を飛び回った。シットは血を抜かれ、紙クズのようになって燃え尽きた。
静寂が戻った。何時しか、雲は消え、満天の星が輝いている。荒れていた海も小涙に変わっていた。
「ああっ!ヤス。ヤスが見えます!…ああっ!」
「おおっ!見えるか、母さん!…俺が見えるのか!」
「ええ…ヤスの顔が…はっきりと見えます!」
「母さん!勝ったんだよ!俺達の愛がシットを焼き殺したんだ」
純子がヤスの背中を探った。シットにつけられた傷が消えていた。