「微妙じゃ無いよ。ここが俺の家だからね」
ラトはそういいながら隣の塀を飛び越えた。
「早く〜」
・・・無茶を言う奴だ。
いくら相棒と旅をしているといっても僕は人間なんだ。
それなりに訓練は受けていたから、並の人間よりは動けるつもりだけど。
「ほっ」
音も立てずに着地する。仮にも争いの国なのだから、用心しておいて損はないだろう。
「ここが・・・?」
どこにでもあるような、西洋風の家。隣の家も、同じ様に見える。
「そうだよ!」
なんだか今日はラトの機嫌がいい。
自分の家ということは故郷・・・なのだろう。
「ただいま〜!ラト、帰りました!」
おぉお、やっぱりラトが敬語を使っている。どんな奴がでて来るのかとどきどきしたけど・・・
出て来たのは、白髪のおばあさんだった。
「おや、ラトだったのかい!おかえりなさい!」
そのおばあさんはとても嬉しそうにラトを迎え入れようした。僕がどうしていいか分からずに立ちつくしていると、ラトはこちらをチラリと見ながら
「ねぇ、今日は一緒に来た人がいるんだ。大丈夫だよね?」
だって。
「一緒に来た人」なんて、ずいぶんよそよそしいなラト君?
笑顔で「よろしくおねがいします」なんて言ったけど、僕の顔は引き攣っていた・・・かもしれない。
家の中は意外とさっぱりとしていて、むしろ生活感が感じられない。
おばあさんの目を盗んでグラス棚の中を指でなぞったら、指に埃が付いた位。
ちょっとした違和感はあったけど、おばあさんのラトに対する優しさを見ているうちに警戒心の紐は緩んでいった。「ラト、お腹はすいてないかい?」
「ラトや、きちんと体は洗っているのかい?」
おばあさんの笑顔は本物に見えたけど。
「旅のお方、えぇと、名前はなんといったかな?」
ラトはだまっている。なぜだろう。
「トトです。」
ラトは僕が返事をしたのを見て安心した顔をしていた。
おばあさんと僕の会話に割ってはいらないように気を使ったのだろうか・・・。