鬼門23
暗闇の中を影が駆け抜ける。月光が影を照らしその姿を露わにした。
可王京介。
彼は斬り落とされた腕を口にくわえ、闇から闇に飛ぶように駆け抜けた。
(ぬかった…鬼門こそ神の心を封印した墓と思ったが…)
可王は自虐的な微笑みを浮かべ、自らの腹を触った。
血は流れていない。傷口も既に癒えつつあった。
「かおうさま〜」
少女の幼い声が可王の耳に伝わり彼は足を止めた。
「瑪瑙か…」
暗がりから少女の姿をした瑪瑙が現れた。完全に再生していないのかまだ頭の半分がない。
「酷くやられたな…もっとも、それでも死なんか」
「自爆に巻き込まれまして…可王様こそ…腕、どうしたんですか?」
「なに…すぐ元に戻る」
瑪瑙の顔が歪む。多分笑ったのだろう。可王は瑪瑙を抱き上げると虚空へ飛び上がった。
「帰るぞ。ここに神の心はない。」
「は〜い」
可王と瑪瑙の影が月夜に消えた。
夜が明けた。
鬼部大社が太陽の下に照らされ、初めてその被害がどれほどのものか明らかになった。
正門は跡形も無く、本堂も半壊状態。死者の数は数え切れない程だった。
「天馬君…」
蔵王丸は天馬が自爆した跡に立ち尽くしていた。隣で大光明が死者達を弔っている。天馬の体は跡形も無く吹き飛んでいた。何も残さず死んでいったらしい。
「知り合いか?」
「…部下です」
蔵王丸が沈んだ声で答えた。大光明は再び死体に目を向けそれ以上何も云わなかった。
「こうじ?」
砂羽の瞳が幸司を見つめた。彼はその瞳を直視できなかった。
「てんまは?」
「…天馬はな…もういない…あのバカは…どっか遠いところへいっちまった」
まるで自分に言い聞かせているようだった。彼の頬を伝って、一筋の涙がこぼれる。
「帰ってくる?」
幸司は答えることができなかった。
闇は去った。
大きな傷と穴を心に刻みつけ。
新しい胎動が迫っていた。
鬼門 終