花火が夜空に咲いても、返ってくる音は二人の居る丘には大して響かなかった。
直之は一本の缶ビールを飲み続けながら冬子の話す昔話に思いを馳せていた。
「・・・そしたらね、先生が教室に戻ってきちゃって、あの時はホント怖かったなぁ」
友だちと花瓶を割ってしまい、夏休みに入る直前の楽しい最後の一日が台無しになった。という、冬子の話に直之は返事をした。
「あったな〜。冬子たち小学生の頃から教室の備品とか壊してたもんな」
「・・・もう高校卒業して五年?六年くらい?」
冬子は花火に目を向けながら高校卒業からの年月を一年一年丁寧に思い出していた。
もうふたりとも二十三歳の立派な社会人になっていた。
「あの頃からみんな大人っぽくなってたな」
冬子は誰のこと?と、怪しげに笑いながら缶ビールを口に運んだ。
「みんなだよ、みんな」
冬子はまた寂しそうに目をうつむけた。
直之は冬子を見るとはなしに見ていた。
「東京、どう」
「どう・・・って」
冬子は高校卒業後、大学も出て、東京のOLの仲間入りを果たしていた。
直之は高校卒業後は、アルバイトを転々としていたが、祖父が他界し、今はその祖父が残してくれた古書店を継いでいる。
「なんで東京に行ったんだっけ」
直之は何の意味も含めずに冬子に訊いた。
「確か、デキる女になるため・・・だったっけ?」
冬子は笑いながらうなずいた。
「冬子も痩せたな」
花火に照らされた冬子の瞳にはうっすら涙が溢れていた。