身体が小刻みに縦に横に揺れている
平凡極まりない車内アナウンス
人々の笑い声
全てが混ざり合いながら自分の耳に流れこんでくるのが嫌で顔を傾けていた。
今自分はトンネルの中を疲れ切った体と共に松本まで向かっている。
馬鹿らしい話しだとは思うが学校生活に嫌気がさしたのだ。
朝目覚めてみるといつもなんでもない様に熟している日常動作が怠くて仕方がなかった。
父親は今日珍しく風邪を拗らせて寝ていた。
そんな父の姿を見て俺も休もうかとダラけてしまったのだ。
母親に相談してみると
「兄さんのところに行けば?」
と軽く言われてしまった。
「お金も出して挙げるし、二泊ぐらいしてきなさいな、先生には私から言っておくから、ね?」
意外な返事に驚きながらも部屋で制服を脱ぎ、気付いてみたら既に荷物はまとめられていた。
「はい、お金」
そう言って渡された財布の中には四万円と、お守りが一つ。
「こんなにいらないよ………」
「あって悪いことはないでしょ。さぁ早く行った行った!」
と半ば強引に家を追い出されたのだ。
トンネルを抜けるとそこは一面緑。
今八王子、大月区間にいる。
寒気がする
頭も少し痛い
少し眠りたい気分ではあるが、何せ初めての一人旅。周りの風景でも見て心を落ち着かせることにした。
……山……川……畑……トンネル……山……山…………
不思議な事に全くと謂っていいほど飽きがこない。
一つ一つの山には表情があり、また川には魚も泳いでいる。
晴れていればもっと楽しめたのかもしれないが。
隣を走るトラックを抜かすのがまた快感でもあった。
翌々考えてみると今までにこのような楽しみは持った事がない様に思える。
だだっ広い教室にガンガンに効いた冷房、疲れた声を押し出す教師たち。同級生の白けた笑い声。
なにもかもが不快で仕方がなかった。
電車はまた長いトンネルに入った。
一体この先僕はどうなるんだろうか……