ゴォォォ…凄まじい重低音が丘に建つ小さな家を揺らした。パリンッ!棚からは次々に物が落下し、彼は起きざるえなかった。
畜生、こっちの身にもなってみろ!空賊め!
お陰でこっちはゆっくり眠れもしない。
布団から立ち上がり、眠そうな面持ちで窓に向かう。
右手で片目を擦りながらカーテンを開けた。
「…なんてこった!」
一気に目が覚めた。街中が真っ赤に染まり、様々なところで悲鳴や爆発音が聞こえた。
「そんな城が…街が…この街は空賊の攻撃対象外のはず…」
「…!!母さんが危ない!!」
彼は家を飛び出し城下街に向かった。
50年前…偉大なる博士により飛空艇が誕生した。
その後人々の間で飛空艇は浸透していき、最も重要な移動手段の1つとして活用されていた。
しかし…ある時を境に飛空艇を無差別にジャックする事件が起きた。
飛空艇は武器を装備する事で凄まじい火力を発揮することから、政府は飛空艇の公共使用を禁止した。
それからというもの飛空艇の数は激減し、今では空賊と政府の空軍だけがそれらを所持している。
飛空艇の破壊力を恐れた街や港では、空賊とある契約をする事で侵略を免れている地域もあった。
ここ、トルガ城の領土一帯もそのはずだった…。
彼は必死で走っていた。
母と弟達の事が心配でたまらなかった。
そんな時…
ゴォォォォォ… 空が割れるような重低音が彼の耳を支配した。
彼の右方向から雲を欠き消して飛空艇が姿を表した。
黒く塗装され、ありとあらゆる箇所に武器が装備されていた。そのデカさは圧倒的だった。
「う…耳が…」
ドォーン!!
飛空艇は彼の行く手を阻むかの如く爆撃してきた。
「うわー」
爆風で彼は吹き飛んだ。
「うう…」彼は頭を強打し、だんだんと視界がボヤけてきた。
そんな間にも飛空艇から次々に空賊が降りてきていた。
「くそ…相手になってやる…」彼は消えそうな声でそう言うと、気を失った。
「いたぞー!」一人の空賊が声を上げた。
空賊達は気絶している彼を抱えると、飛空艇に乗せ牢に入れた…