インターホンが来客を告げる。
「はいはい、と。」
恵一が扉を開けると、そこには十五年前の亡霊がいた。
「え…珠…。」
「覚えてた!?」
違った。彼女ではなかった。
そこにいたのは、似ても似つかない、少女だった。
「お久し振りです、恵一さん。」
頭を下げた少女を、恵一はどこかで見ている気がした。
「…お前珠美か!?」
「遅いよ、恵一さん。」
最後に会ったのは小学校卒業の頃か。それ以降は忙しくて帰郷もできなかった。
「全然わからなかった。そうか、三年も立てば女の子は変わるか。で、どうしたんだ?」
「はい、私今日からこちらに住まわせてもらいます。」
珠美は笑顔でそう告げた。
その後、牧江との電話。
「どういう事だ牧江さん!」
『いやー、そっちの高校に受かっちゃってさ、こっちから通えなくも無いけど大変しょ?』
軽い調子で牧江は言う。
『したら、恵ちゃんがいた、とね。』
「…三十だしさすがにもうちゃん付けは…いや、そうじゃなく、俺と一緒に暮らす、ていいのか!?」
『珠美がいい、て言うんだもの。私達夫婦は本人の意思を尊重するの。』
珠美は笑顔でニコニコしている。
『あ、でもまだ手出したら犯罪だからダメよ?』
「出すか!」
恵一は勢いで電話を切った。
「…大体は聞いた。本当にうちに住むのか?」
「はい、決めましたんで。それにここに住めば毎日美味しいご飯食べれるし。」
「こらこらこら。」
珠美はてきぱきと荷物の整理を始める。
「あぁ待て。向こうの部屋使っていいから。」
「はーい。」
珠美は大きな鞄を持ってその部屋に向かう。
「…はぁ、ったく。十五年前もこう、急だったな。いや、もう十六年になるか。あと二か月くらいで。」
彼女と同じ痣を持つ少女は部屋で声を上げながら荷物と格闘している。
「恵一さん。」
それも終わったのか、珠美が出てくる。
「一つ言い忘れてたんですけど。」
「うん?」
「私、今年で十六なんですよ。」
珠美は左手を胸元に上げながら言う。その薬指には安物の指輪がはめられている。
「あぁ、そうだな。で?」
「…いえ、その。」
もじもじする珠美に、恵一は先手を打って言った。
「塩と砂糖間違えなくなったらな。」
「…絶望的です。」
(なんで俺の周りに集まる女は…。)
溜め息を吐いて、
「飯作るぞ、手伝え。」
「は、はい!」