翌朝、冬子は盆の墓参りに来ていた。
両親も一緒だった。
「・・・さてと」
手を合わせて参っていた父親がゆっくりと立ち上がった。
「じゃあ父さんたち帰るけど、冬子は・・・」
「うん、本屋に行ってくる」
本屋とは直之の古書店のことである。
冬子は墓地で両親と別れ、古書店まで歩いていった。
直之は一年ちょっと経って少し慣れてきた店の本の配置を見回りながら冬子を待っていた。
店内には柱時計から聞こえてくる秒針の音だけが響いていた。
「ナッちゃん」
扉を開ける音が聞こえなかったが冬子が店に入ってきていた。
「お、びっくりした。今来た?」
「うん」
冬子は大学卒業後の一年ほど、就職活動の合間に店に通い詰めていた。
「冬子、俺さ」