私の住むマンションは以前本気で好きだった男の名義であった。
冬までは毎日一緒に過ごした。夏まではときどき顔を見た。同じ布団で寝る日もあった。それが今ではスーツを取りに戻ってくる彼を布団の中からたまに見かけるくらいだ。
彼は賢士。去年の冬まで働いていた風俗店の店長だ。私と賢士は店でも家でもつねに一緒だった。彼の元には5才になる子供がいた。私も時々会った。賢士と子供と三人で暮らせる日を少しだけ夢見ていた。
でもそんな夢を見たのは私一人だった。『好きな女が風俗で働いて平気なの』と思う日がつづいた。賢士は私に押されて私を店から辞めさせた。でも、それで私と賢士はおわった。賢士の店でお客さんのリピートが返せる女は私だけだった。それで賢士は私と暮らした。すべては店のため。ただそれだけだった。ほかに住む場所がない私は意地をはってまだ住み着いていた。その前の男には妻がいた。子供が生まれた次の日から連絡がなくなった。そしてその前の男には借金があった。私からお金を借りて借金が返せたと言った彼は次の月に薬物で警察に連れていかれた。
もう人を好きになることなんてない。 そう思った。