ここで、ようやく膝立ち姿のテンペ=ホイフェ=クダグニンにリクは振り向いた。
『不幸中の幸い等とはとても言ってはいけないが…もしも手違いが無かったら、恐らくスタジアムの中は一0万度の灼熱と爆風で覆い尽され、観客は全滅していただろう…フーバー=エンジェルミは、そこまで…考えて』
地球時代から忌むべきとされた悪魔の武器に手を伸ばしたのだ、とまで説明しようとして、やるせなさに言い切れず、そのまま顔を反らして少年は歯ぎしりする他無かった。
そして、すぐに画像に向き直して、
『還る準備はして置けよ?だがその前に、俺にはやる事が出来た』
ホログラムの放つ光をを背景に、後ろ姿がぽつりと呟いた。
『闘うの!?エンジェルミと!?』
少女は驚愕して、大きな瞳を更に見開いた。
『このまま放って置く分けにも行かない』
リク=ウル=カルンダハラは、静に己の決意を告げた。
『今更最外縁征討軍に何の義理もない。ここまで事態を傍観し、何も出来ない上層がどうなった所で知った事か。いっそあいつ等が太子党にやられても良い気味な位さ。だが、マエリーの事も有るが、このままじゃ、パレオス始め何も関係も無い民間人が…大勢巻き込まれて…だからどうにかこれだけは…止めないといけないんだ』
『で、でも…危険よ?私も賛成はするけど、あそこまでやる奴等だったとは、正直考えも…しなかったわ』
『一度使った核だ。もう一発使おうと連中はするかも知れない―そして今度も逆向きに設置するなんて間抜けな事はやらないだろう―密集地でぶっ放せば最大三万人は殺せる代物だ―それを止める為にはあの人の皮被った化け物を倒すしかないんだ。まあ、俺一人の命にしては、中々の大義名分だ―仮にくたばっても充分なお釣りが来るさ。そう簡単に(英雄)になってやる積もりも無いがな』
そして、しばらくお互い沈黙を続けたが、
『で、お前はどうするんだ?』
突如としてそれを破ったのは、観戦武官の背中だった。
『―えっ!?』
『これは俺の(私戦)だからな―わざわざお前にまで付き合って貰おうは思わないぞ?もし嫌なら俺を解任して、帰還命令を出せ。俺がそれに従わなかったと言う形を取れば、責任は全て国法を無視した俺に有る事になるからな―お前にまで累は及ばないさ』
淡々と、しかしとんでもない要請をリクは口にした。