「僕が自分を天使と言い切れない理由はね…」
目を閉じ、背中の神経に問いかける。
「これなんだ。」
メリメリという音と共に、尖った肩胛骨の一部が背中の皮膚を突き破る。
骨は伸びて伸びて…肉が付き始めた。そしてその肉はやがて羽毛に被われる。
真っ黒な羽毛に。
「分かる?僕は天使だけど、黒い翼を持っている。だから、天使じゃない。」
ルイはしゃがみこみ、膝を抱える。
「だから…追放されたんだ…もう、父さんにも母さんにも会えない…」
「俺も、追放された。」
ハッと顔を上げる。そこには、ニードの、何処か寂しそうな瞳があった。
「白い翼が生えたから。」
バサッ
その背中には、目映い程真っ白な翼が生えていた。
でも、片方がおかしな方向にひしゃげている。羽も所々むしられて、痛々しかった。
「お前のトコよりは、荒っぽいやり方だけどな。」
魔界。
あの何も見えない真っ暗な世界で聞こえた、複数の怒号。
あの時あそこに居たのは、悪魔たちとニードだったのだ。
「あそこに居て、息苦しさは感じてた。けど…」
「今まで仲間だと思ってたのに、翼の色が違うだけで追い出された…」
ニードの言葉をルイが引き継ぐ。
「あぁ…」
「僕ら、こんなトコまで似なくて良いのにね。」
悲しげに笑うルイ。
「悪ィ!」
ニードは頭を下げている。
しかしルイにはその理由が解らない。
「な、何で謝るのッ!?」
「お前がここに居るワケも何も知らないで、お前の言葉を天使の驕りだと思っちまった…イキナリ突っかかって悪かった!」
「い、良いよそんなの!全然気にしてないし!」
「そうか…?」
「うん!全然!」
「なら、良かった。」
ふっと笑うニード。
ルイもにっこりと笑って
「ニードって話しやすいな〜」
「そうか?…なぁ!天界ってどんなトコだ!?」
「え?う〜ん…良い人たちばっかりだったけど、ちょっと大変だった。」
「例えば?」
「『行儀良くしなさい!』とか言われるし、『悪の心を持ちません。』っていうような教典を覚えなきゃいけなかったし…」
「うへっ面倒くさ〜」
「でしょ!?あとはね…」
平穏な一日が過ぎ去っていく。
空を流れる雲のように。