武藤秀は髭面の顎を撫でながら、近くにあった収穫するために持ってきた古い鉄鋏と古ぼけてあちこち穴のあいたプラスチックの網をもって、茄子の畦の前にしゃがみこむ。
つやつやした大振りの紫の実にヘタの刺が瑞々しい。さわると実はつるつるとしていて、へたを切るとつんと茄子くささが漂う。よくぞ、よくぞここまで育ってくれた。武藤は嬉しくて思わず笑んだそのとき、
「武藤さーん!」
家の中から声がした。 悦に入っていた武藤ははっとして慌てて「はーい!」と返事をした。 縁側から顔をのぞかせたのは、まだ十代後半ほどの青年。ぼさっとした色を抜きすぎた茶髪が目立つ、今どきの青年だった。
「桜杯教授からの電話ですよー。また”お仕事“のお話らしいねー」