ヤス#83
第二章【兆し】
ヤスは墓の前で佇んでいた。線香の青い煙が細い筋となって昇っていく。
去年の冬、最愛の母がこの世を去った。そして、愛犬のハヤトも母を追うように死んだ。
ヤスは純子が死んだ時、どうこくした。御床島に行き、サトリの名を呼んだがサトリは姿を現わさなかった。
ヤスは天涯孤独の身になった。
ヤスはこの春、高校を卒業する。島に留まるか、島を出るか…墓前で純子の魂に問いかけていた。
ヤスはサトリの言葉を思いだしていた。
サトリは再び「戦いの時」がやってくると言った。それは何時なのか…。
母の純子が逝ったのは、天命だと受け止めている。シットのような魔物の仕業ではない。御床島での決戦でシットに勝った。そして、母は命を取り返したのだ。
突然、背中から声をかけられた。
「大きくなったのぉ」
ヤスは聞き覚えのある声に振り向いた。
「サトリ!」
「ふおっ、ふおっ、ふおっ…久しぶりじゃの…四年ぶりかの」
「五年ぶりだよ、サトリ」
「ふおっ、ふおっ…細かい年数はワカランでな」
「懐かしいな。御床島に何度も行ったんだぞ。サトリを呼んだのに…」
「そうか、そうか…
ちょいとばかり旅に出ていたものでな」