『わ…私だって!』
テンペ=ホイフェ=クダグニンは固く握った拳を大きく上下に振って、
『こんなとんでもない蛮行、見逃す分けには行かないじゃない!マエリーは私達若手の憧れだったし、本当に、尊敬出来る人だったし…!こんな、レイプだとか、されて…良い人何かじゃないわ!それは、太子党とかエンジェルミとか正直恐くもなるけど…恐いからとか言う問題でも…ここまで来たらもう、そんなんじゃないわよ!』
美貌を染める紅い色素が、言葉と共にどんどん濃度を増して行くのは、恥じらいではなく怒りの焔がそのまま転化した証であった。
リク=ウル=カルンダハラとは別の角度から、確かに彼女もマエリーには薄からぬ縁なり思い入れがあった。
『だから私もあいつ等と闘うわ!』
観戦武官は彼女の決意に感激して、振り反って抱き付いたりはしなかった。
『良いのか、それで?芸能界は星間諸侯の宣伝媒体なんだろ?連中に敵対したら色々睨まれて、これからの活動に支障が出るんじゃないか?』
ホログラムキーボードをいじくりながら、皮肉に満ちた冷静さで、希望に満ちた未来予想図を示してやったが、少女の信念を覆すには、もう、豆鉄砲一発分の効果も無かった。
『これは…これは!損得の問題じゃないわ、私の気持ちの問題よ!【仲間を見殺しにしておめおめ逃げ戻った星間アイドル】!?そんなのに何の魅力が有るのよ!?一人より二人の方が勝てる確率だって高くなるじゃないっ!今マエリーを失って、今度は貴方まで喪って…それで平然と活動していられる程、私は…臆病でも卑怯でも無いわよ!』
キーボードから離した両手の指を唐机の上で組みながら、リクは敗北を認めるしかなかった。
それに、今の彼には必要なのだ。
圧倒的な敵と闘える強い意志と能力のある、味方なり戦友が。
そして、残念な事に、テンペ=ホイフェ=クダグニンと言う少女は、この時点では最も当てにすべきほとんど唯一の存在となっている―併せてこれも認めなければならなかった。
『そうか―正直助かる』
重く低く、しかし本心を少年は口にした。
『確かにお前の言う通りだ―どうせなら一人よりは二人でやった方が良い。協力してくれるのなら、それに越した事はない』
事実上のお願いに接して歓喜したテンペは、ぱちんと両手を合わせて目と顔を輝かせた。
『本当に!?じゃあ決まりね!』