夏目亜佐子は夜毎ある怪奇現象に悩まされていた。 友達に話しても信じてくれない。笑われるか、真剣に精神状態を気にしてくれるかのどちらかだ。人が真剣に悩んでいるのに失礼極まりない、と亜紗子は憤慨していた。だから、最後の頼みの綱に、今日やってきた
時期は8月、夏休みでがらんとした大学校内の、教授棟の一室の前に雅子は立っていた。淡いベージュのプレートには『桜杯昭文』と彫られている。なんとなくじとっとした、マンガで言うなら激しく縦線の入った雰囲気に、亜紗子は躊躇した。外では煩いくらい蝉が鳴き太陽の日差しは鬱陶しいくらい肌にささる。 こうしてじっとしていても暑くてじんわりと汗をかくほどなのに。なのに、なんだろう、ここは。あきらかに冷房のききすぎか、隙間から冷気がもれて涼しい。