しばらく入ろうか入るまいか躊躇した後、足に力を入れ、ドアノブに手を伸ばしたそのとき、いきなり扉が開いて、エアコンの冷気がもろに体にぶつかる。
「きゃ!?」
「あぁ、え?」
間抜けな顔して出てきたのは、大学の若き教授、桜杯昭文だった。ひょろっと高い身長と引き締まった体、赤いフレームの眼鏡の奥に隠された知的な光を宿す瞳男なのにかっこいい、よりも綺麗といった形容詞がよく似合う。悔しいが肌は自分の、少なくとも二十倍は綺麗だ。
「あれ、夏目くんじゃないか。どうしたんだい?」
にこっと人懐こい笑顔を浮かべて教授室に招く。