この10年クロウを見た事がない。国内にいるが、常に能力者を探して各地を飛び回っているらしい。
だから、ただ黙々と訓練だけをした。必要以上に、誰よりも強くなる為に、そして…いつか来るべき復讐の時の為に…
組織の訓練のお陰で、常人を遥かに上回る身体能力を手に入れた。
能力者としてもSランクまで上り詰めた。Sランクと言っても日々能力は進化していくし、あくまでも価値だ。戦闘では他の能力者には全然かなわない。
それに、この10年で組織に所属する能力者は相当な数になった。
中には所属した段階でSSランクという怪物もいた。
最近では政府側の能力者や、スラム街の少年グループとの武力衝突が起きたり、東方連合側にも能力者が現れ、新たな戦争へと発展しそうな勢いになりつつあった。
そんな中で僕は新たに連れてこられた、能力者から情報を引き出す任務就いた。
既に記憶の閲覧・消去までに達していた僕の能力はこの手の任務には最適だった。SSランクになるのも目に見えていた。
正直チャンスだと思った。戦闘以外で他の能力者と接触が出来る任務はそうはなかったからだ。
同じような境遇の仲間を集め、組織を脱走する。10年間この事ばかりを考えてきて、復讐目標がクロウから組織全体に変わりつつあった。
そしてこの任務に就いてから初仕事がやってきた。
『イルくん、仕事です。』
メイスとも10年の付き合いだが、コイツを見る度母さんの最期を思い出す。
『先日北部のスラム街近くで起きた、少年能力者グループとの抗争の中で捕らえられた、リーダーの少年なんですが、記憶を消して組織に所属させたいと上からのお達しです。』
『能力は?』
『影を使う能力だそうです。』
『それだけか?』
『詳しい事は分かっていません。仲間を逃がす為に時間稼ぎをして、あとは自ら降伏をしたそうです。』
『じゃあそいつ以外に捕まった奴はいないんだな?』
『ハイ。リーダーが捕まった後に、他の能力者は全員死んでいますから。』
『いらない奴は皆殺しか…酷いな。だからわざわざ記憶を消せと?』
『本人はまだ事実を知りませんが、念の為にと…』
嫌な仕事だ。でも仲間にするには都合がいい。だが少し気に掛かることがあった。
『わかった。連れて来い。…とその前に…皆殺しをしたのは誰だ?』
クロウが国内にいる今、これだけは確かめたかった…