ヤス#87
「突然も何も、ヤスの家には電話がないから連絡の取りようがないんだよ」
「あ、そうだね…ゴメン」
「やっちゃん。今日来たのはね…やっちゃんの事なの」
ヤスは泰子の艶やかな口元を眺めていた。
泰治の家には、何度か泊まりに行った事がある。泰子は風呂上がりに必ずネグリジェを着ていた。透けて見える泰子の体は刺激的なものだった。だが、母にはかなわないと思っていた。
「聞いてる?やっちゃん」
「あ、はい。聞いていますよ」
「どうかしら?その料亭で、働きながら絵の勉強をする方が良くない?絵描きになるんでしょう?」
川村の親戚筋が福岡で料亭を営んでいるという。要は就職の斡旋話を持ってきてくれたようだった。今は流れに任せるべきかもしれない。
「おばさんにお任せします」
「そう。良かったわ。これで一安心よ。ふぅ。ホントに良かった。やっちゃん、今日はウチにいらっしゃい。一人じゃ、淋しいでしょう?」
「ハハ、淋しくはないけど…久しぶりにおばさんの手料理が食べたいな」
「まぁ。ふふっ。しゃあ、頑張って作るわね。…それから…もう一つお話があるのだけど」
「はい…何でしょう?」