重武装の正規軍に一般民衆がまともに闘って、敵う分けが無い。
増してや、反対運動勢力は、闘う前から戦意にも信念にも団結すらにも見放されていた。
パレオス首都星ティヴィタヴェキアの長い長い夜が明ける同日一八時までに、主要都市は粗方政府側に戻り、残りの地域の回復も、最早時間の問題と観じて良かった。
こうして、星邦を大混乱に突き落とした大暴動は終息を見たが、消し難き副産物のそれは始まりの時をも意味していた。
しかも、歓迎されざるそれは双子の形を成していた。
一方は、フーバー=エンジェルミの仕掛けた核地雷にも勝るとも劣らぬ甚大な被害。
惑星全土に及んだ暴動によって、運動参加者だけでも一四000人が死亡したのだ。
あのオストレスタジアムの惨劇をこれだけでもう上回っているのだ!
官憲側は一七四二名が殉職。
更に増援に来た合衆国軍兵士五名も命を落としている。
そう、最外縁征討軍から出た始めての戦死者は、帝国との戦いではなく、正式な要請を受けてとは言え、味方の市民を相手にした戦闘の中でだったのだ。
負傷者及び経済的損失に至っては、測り知れない。
だが、人命を除けば、物理的分野ならば回復も復興も幾らでも出来る。
一番救えないのは双子の内もう一方…人心に与える破滅的影響だ。
今まで四00年間、概ねパレオス国内は平和裡にやって来たのだ。
あらゆる分野・業界で、競争もあり、闘争もあり、時として一部の凶悪な犯罪者や組織が、社会全体を騒然とさせた事もあったが、長い歴史をかけて醸成されて来た祖国や同胞間の自然発生的な信頼感ないし紐帯感が、崩壊する様な事態にまでは至らなかった。
それが、統合宇宙軍の侵略を期に、外来者にまず尊厳を踏みにじられ、次いで今度は自分達で血を流し合ってしまったのだ。
しかも、それを鎮める為に又、外国の軍隊を導入して、大勢の国民が命を奪われたのだ。
ここまで来てしまうのにたったの四日―太子党による少年少女の連続拉致から数え上げても、十日しかたってない。
四00年に及んだ安定も安全も、独立すらもが僅かの期間で息の根を止められてしまったのだ―少なく共、一般星民がそう思ったとしても無理は無い。
そして、その実感が、政府に対する怒りと冷たさに満ちた不信感・グイッチャルディーニ政権への不支持へと転化したのは、理の必然であった。