出発の朝。
またすぐに仕事があるのか、冬子はラフな出で立ちでホームに立っていた。
長い髪は綺麗に後でまとめ上げられており、作業をしやすくするためだということがすぐに読みとれた。
なぜなら普段の冬子は髪を束ねたりまとめたりはしないからだ。
東京での顔つきに冬子は戻りつつあった。
「まだ三十分くらいあるのに」
冬子はホームのガラガラのベンチの真ん中を二人占めしていた相手、直之に言った。
直之は何か考え込んでいるようになにも来ない新幹線の入り口の向こうを見つめていた。
「私・・・考えたんだけど」
直之はまだ向こうを見つめている。
「やりたいことはまだ見つからない」
一息に言い終えると、冬子も反対の新幹線の入り口を見つめた。
まだ見つからない。
結局、昔から進歩しない自分がいた。
やりたいことは山ほどあるのかもしれない。
ただ、一つ。
一つやりたいことを見つけだすのが、冬子には出来ずにいた。