普通…なら、
カラスは言葉を喋らないはずだ。
でも限に今、このカラスは喋った。
綺麗な澄んだ声で…。
しかも奇妙な言葉だ。
それが、僕がこのカラスに対して持っていた、
恐怖心を和らげた。
これはカラスじゃない、と僕は何故か確信した。
だからだろうか?
僕は問い掛けをしてしまった。
自分を殺すのか、と。
『へぇえ…、
こんな状況なのに、
俺の言葉ムシして、疑問を持たないでさぁ、
しかも、逆に質問?』
ウケるー、と言って、
カラスは笑い始めた。
人間の笑い声で。
その親しみやすい口調に、僕はさらに安堵した。
カラスは僕の上から降りて、僕の周りで、軽快にステップを踏むように跳ね回り始めた。
僕はゆっくり上半身を起こして、足を伸ばした楽な体制で座った。
…‘俺,…?
このカラス、
雄…いや、男?
しかも、けっこう若い声で…綺麗…。
僕の周りを回っている、この謎のカラスを、目で追った。
一見普通のカラスだ…。
なんなんだ?
あっ……。
《ブルッ…》
一瞬身が竦んだ。
人語を喋る普通じゃないカラス。
このカラスはもしかしたら、本当に死神の遣いなのではないかという思いがよぎったから…。
−−−怖い。
−−−−−あの、
火葬場での事がきっかけで、それから僕はカラスが恐ろしくてしょうがなくなった。
学校帰りには、
カラスが居る場所を極力避けて通るようにして、早く帰って、
夕方までには、遊んでいる途中でも帰った。
なにより、カラスが活動し始める時間には、
どんなに行かなければいけない用事があっても、絶対に出掛けなかった。
中学生になったいまでも、多少薄らいだものの、まだカラスに恐怖心を抱いている。
そして、
時折、カラスに
魂を盗られる夢をみる。
僕の胸に爪を立てて、
魂をえぐり出される。
という恐ろしい夢…。
…だから、
今日も早く帰るつもり
だった。
『怖ぁーい?』
突然カラスが、
僕の心でも見透かしたように話かけてきた。
いつの間にか左腿の上に乗っかっている。
『大丈夫。
あげるから、貰うだけ』
…へ?
意味が解らないんだけど…。