ヤス#91
「ちょ、ちょっと待ってね。タ、タバコを吸っても良いかしら…」
「うん…どうぞ。良ければ、これを」
ヤスはポケットからセブンスターとライターを取り出して泰子に渡した。
「やっちゃん。タバコを吸うの?」
「うん…普通に吸うよ。ハハ、母さんも吸っていたし」
「知らなかったわ…そうね、もう大人だものね。ねぇ…やっちゃん。ちょっとお散歩しない?色々と聞きたいことも有るし」
「うん。いいよ。でも、泰治はどうしようか?」
「お買い物に行くと言って、お留守番をさせましょう」
「お兄様は、お留守番か」
「ふふふっ。そう言う事ね」
ふて腐れる泰治を残して、泰子とヤスは散歩に出た。
ここ高峰て言う地区は、元々炭鉱の町だった。全盛期には人溢れかえっていたが、今では閑散としている。
山手の丘に向かって歩き出した。ヤスはセブンスターに火を点けると深く吸い込んだ。泰子は成長したヤスを眩しそうに見上げている。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ…何でもないわ」
「そうですか」
丘についた。遠方に海が見える。草むらに腰を下ろした二人は、遥かかなたの水平線を見ていた。ヤスは大の字になった。空を見上げている。