「夕貴!こんな時間からどこ行くの?」
呼び掛けてから、気付いた。170cmそこそこの背丈と若い子特有のだらしない着こなしは一緒。ただニット帽からのぞく長い襟足が金髪だった。ちなみに弟は黒髪だ。
あ、友達か・・。
口を押さえたがもう遅い。
華の方を向いた男の顔を見て、
―可愛い―\r
華は反射的にそう思った。
綺麗な肌と大きな瞳、スッと通った鼻の下にはふっくらした唇。
白人の少年がそのまま成長した様な顔だ。
男は突然呼び掛けられて驚いたのか、華を凝視している。
「あ、ごめんなさい。人間違いしちゃって・・。」
慌てて弁解する華。
その時、男が突然口を開いた。快活な笑みを浮かべ一言。
「可愛い〜。」
ん?今・・何て・・?
聞き慣れない言葉に華の動きが止まる。
そのまま一瞬見つめあっていたら、男の横から見慣れた顔がひょいと出てきた。
「あ〜姉ちゃん。今帰り?」
「・・え?あ・・うん・・。」
ぎこちなく視線を弟に向ける。しかし男は今だ華を見ていた。
その視線に気付き、夕貴が声を上げる。
「あ〜これ、姉ちゃん。本物。んで〜これ、晃。大学のダチ。」
何とも適当な紹介。華は弟に呆れた視線を送ってから、男―晃に笑いかけた。
「こんな弟だけど、これからも仲良くしてあげてね。さっきは驚かせちゃってごめんなさい。じゃあ。」
晃の返事も待たず部屋の中へ入る。
ほとんど機械的に鍵を閉めチェーンをかけ、お風呂に入りスキンケアをして布団に潜り込んだ。
その1時間弱のあいだ、華の頭から晃の顔が離れる事はなかった。
そしてそれから眠りにつくまでの数時間のあいだ、華の耳から晃の声が離れる事も、なかった。