頭に浮かぶのは、疑問と絶望と恐怖。
何かを裏切られたような気がして、
僕はカラスと、気を許してしまった自分と、なにもかも全てを憎んだ。
同時に、僕は自分が情けなくなった。
何を期待していたんだ?
優しそうに見えたのは、きっとニセモノなんだ。
僕を安心させるための、芝居なんだ。
カラスなんだよ…
しかも人語を喋る、普通じゃない…そう…−−−死神の遣いなんだ…。
こいつは‘死神の遣い,
僕の命を盗りに来た…。
絶対 そうだ。
そうなんだ。
だからさ…−−−
苦しいから、辛いから、悲しいから、嫌だから、考えんの止めよう…。
もしかしたらこれは全部ウソで、夢なんだと……否定するなよ…。
カラスに、期待や希望とか未練なんて残すなよ。ただ逃れたいだけじゃないかよ、この絶望から。
こんなの、苦しいから。
なのに……、
なんで 僕は……。
泣けてきた。
でも、涙は出なかった。
「……ぅ…あ…ぁ…」
声が掠れてきた。
喉が痛い。
そして熱くて気持ち悪くて、締め付けられているような圧迫感がする。
もう、声は出ないような気がした。
僕は口をつぐみ、下唇を強く噛み締める。
痛みに感覚を犯されているのか、頭が朦朧としている。けど、耐え切れない不安が渦巻いていた。僕はどうなっているのかと、今のこの状況と現実を理解ぐらいしておきたくて、左目で自分を確かめた。
そして、
絶望が確信へと変わった
右目から流れ出る、どろりとした鮮血は、押さえ付ける両手と頬を伝い、僕の体と服を紅く染めていた。
これは現実だと、
理性が認めたような気がした。
そして安堵した。
自分はまだ生きている。
不意に押し止めていた激情が溢れ出したようで、左目が潤み、涙が出てきた。
視界がかすむ。
瞼を閉じて、虚ろいで。痛みから解放されたい気分になった。
−−−あの…カラスは?
姿は見えなかった。
有り難かったけど、何故か悲しかった。
『−−逝くなよ?
死なれたら、困るし』
あのカラスの声がして、僕は咄嗟に目を向けた。
目の前に、
黒紫色の短い髪の、
僕と同年代くらいの少年が立っていた……。