「それで何するつもり?」夏穂は強気に言ったが明らかに動揺していた。
夏穂だけではない。私も実は何のためにカッターを出したのか理解していなかった。ただ、私は本気で龍二のことを好きだったのに、その思いを踏みつけられたことに腹を立てていた。ましてや、親友と思っていた夏穂に裏切られた分私の神経はどうかしていた。
「小原!」幸か不幸か先生に見つかってしまった。カッターナイフを奪われ、私は職員室に連れて行かれた。
数分後、母親が職員室に呼び出された。母親はひどく不機嫌な様子で、私を睨んだ。そして、外向けの笑顔でこう言った。「この子は、きっとなにかイライラしているんだと思います。夏穂ちゃんとはいつも仲良くしているから、つい甘えが出てしまったんだと思います。」校長はひどく困惑した様子で言った。「しかしですね。このような事が外に漏れると学校としてはその・・・。」母親もその考えは同じだった。そして、2人は私を三週間自宅で休養(きんしん)させることにした。その際、私の考えが問われることはなかった。こうして、三週間後にはバイク登校をする子たちと同じ待遇が私を待っていた。学校のお荷物生徒の仲間入りをしたのだった。
生徒達の私を見る目が変わったのもその頃だ。みんな私を、痛々しい腫れ物を見るような目で見てきた。まるで、話しかけると無差別に爆発する爆弾のように・・
私が右手に傷を作った日も、そんな感じだった。
いやいや私を調理実習のグループに入れた女子達はニコニコしながら、
「小原さんは座ってていいよ。」「私達がやるから。」と言っていた。
彼女らはにこやかに私のことを軽蔑していた、罵倒していた。
そして、できあがったハンバーグには一緒に作ったキンピラゴボウのにんじんの皮が詰め込まれていた。彼女らにとってこれはゲームでしかない。
しかし、私はこの屈辱をこのままにしたくない。そこで、普通ならば加害者にむけるであろう包丁を自らの右腕に向けたのだった・・・・・。
中1の傷は中3の現在まで私を強くしてくれた。この腕の傷をつけた日を忘れまい。それが、今の私を作ってきた。・・・・ある人に出会うまでは