ぬえ?
竜助の蛇貫転がぬえの半身を吹き飛ばした。だが、ぬえは半身を失いながらも竜助に剛腕を突き立てた。どす黒い血が辺りを染める。
「うわっ!」
不意を突かれ、竜助がその剛腕の直撃を受ける。だが、彼はとっさに清姫を回転させ、その衝撃を反らせた。ぬえは凄まじい速さでその場を去ろうとしていた。「逃がすか!」
竜助がぬえに向かって清姫の刃を突き立てた。
その時だった。
闇の中からそれは突然現れた。それは清姫の刃を太陽のようなきらめきを放つ白刃で簡単に受け流し、竜助の体を後ろへ弾いた。
「なんだ!?」
既に、ぬえは闇の中へ消え去った後だった。竜助は闇から現れたそれを真っ直ぐ見つめた。
厚い雲に覆われていた月が姿を見せた。月光が闇の全てをさらけ出す。
黒い闇色の装束、頬に刻まれた梵字、腰に三本の刀を挿したその姿は一年前と全く変わらない。大光明に斬り落とされた筈の腕も再生している。
「あなたは…?」
「我が名は可王京介。暗闇の使者」
竜助の手が震える。一年前、たった一人で鬼門を襲撃し、多くの生命を奪ったその張本人が目の前にいるのだ。
竜助は清姫を構え、可王の体に刃を突き立てた。
「僕は妖庁役人、氷川竜助。あなたが村雨先輩の師匠、一年前の犯人!」
竜助は飛ぶようにに駆け出すと、渾身の力を込め、清姫を打ち込んだ。可王は紙一重で刃をかわし、竜助の頭を掴んだ。「氷川…、武流の倅か、それとも…」
「兄を知っているのか!」
「弟か…あまり似てないな…」
可王が冷ややかに笑う。そしてゆっくりと手を離すと、その場に座りこんだ。
「なんの真似だ…」「なに…少し、面白い話をしてやろう」