とにかく逃げる。
新学期の朝だろうと関係無く廊下を走る。
後ろを振り返れば由良先輩はゆっくりとした足取りで追って来る。
なんで離せないのか意味が分からん。
未来から来たTか、あんたは。
「はっはっは、どこへ行こうと言うのかね」
由良先輩が何やらのたまっているが気にはしていられない。
なんとか自分の教室に辿り着いて扉を開こうとする。が、立て付けが悪いのか開いてくれない。
「開いてーー!」
悲痛な感じで叫んだら開いた。
というより中にいた奴が開けてくれた。
そこで事の重大さもわかっていないで俺と話そうと試みるのは久保匠。
俺の友人だ。
「お前は元気だな。俺などまたエロゲが延期して憂鬱だと言うのに」
こんな生粋のオタクに構ってる暇ははっきり言って無い。
鬼神モードの由良先輩は確実に近付いてきている。
「か、匿って!」
俺がすがりついたのは同じく友人の笠木広人。
久保と違って普通人のかなりいい奴。
「んぁ?どうしたんだよ?」
笠木は朝のおやつとしてあんころ餅を食っているが、関係ない。
その陰に隠れた。
「ぐっもーにん、えぶりばでぃ」
来た。
多少は兎の皮を被り直してはいるが、鬼オーラが洩れている。
まぁ俺にしかわからんだろうが。
「はーい、笠木くん久し振り。片桐見てない?」
う、隠れる所を間違えたか。
そういや笠木と由良先輩は知り合いだったか。
「…あー、一回入って来たけどすぐ出て行きましたよ」
「あんがと!」
由良先輩は即座に兎の皮を破り捨てて廊下に出た。
「サンキュ、笠木」
「…何やったんだお前」
「はっきり言って覚えが無い」
クラスメイトとの挨拶も適当に、俺は廊下に向かう。
一か所にとどまるのは危険、との判断だ。
「じゃな久保」
「二週間程度なら構わん、なんせ三年以上は待ってるからな!今更だ!」
なんか久保は遠くに行きかけてるが止めるのはやめといた。
そんな暇は無いんだってば。
ハイパーモードの由良先輩を止めるには、やはりあの人の手を借りるしかない。
が、基本的にワンセットな筈だろ。なんでいない?
朝は一緒に来てる筈だ。
なら、二年の教室か?
あんな国家指定の危険物を野放しにしないでくれよ!
あの人のクラスに着くまで、由良先輩に出会いませんよーに!