階段で出会うのが一番危険な気がする。
まず逃げ場がない。
そして足場が悪い。
詰んだ、という奴だろう。
「うっふっふっふ」
あ、詰んだ。
「ぎゃー!?」
ちょうど上から降りてきた由良先輩と鉢合わせしてしまった。
「なんかここまでやって中途半端なのも良くないと思ってさ、すごい捜しちゃったわよあたし」
ぽんぽんと軽快に階段を降りる由良先輩に、俺はくるりと背を向けて階段を飛んで降りる。
危ないから真似すんな。靭帯切れたりするから。痛いらしいぞ。
「あ!逃げんな!」
「命の危機に逃げ出すのは生物としての本能です!」
やはりここは男女の体力の差。なんとか逃げ切れた。はず。
「…段ボール箱が欲しくなってきた」
由良先輩なら転がってる箱を蹴り飛ばしたりくらいしそうだが。
大きく肩で息をしていると前方から三人組の女子が現われた。
きゃー、と黄色い悲鳴で逃げる。
別に、息が荒いのは興奮した変質者だからじゃないんだけどな。
まぁあの子達に弁明する事はきっともう無理だ。既に俺には露出狂の嫌疑がかけられている筈だし。
とにかく、上に向かおう。
なんとしてもあの察しのよい先輩に会って、保護してもらわねば。
ゆっくりと階段に向かう。
そして一気に上り切ってしまおう。
そう思って一段目に足を乗せると、
「いらっしゃいませー」
死角に隠れてやがりました。
「ひぇっ!」
本気で驚いて変な声が出た。
どこから出たんだ今の。
「おっと逃がすか」
方向転換しようとした俺の足をがっちりと由良先輩は掴む。
あぁ、柔らかい手だ。
「あたしね、走りながら考えてたの。足を持って校内引き摺り回されるのと、階段突き落とされるの、どっちがいい?」
その言葉で瞬間的に意識が現実に戻った。
「どっちもよくない!」
どうやってかはわからんが、由良先輩の拘束から抜け出した俺は段抜かしで階段を上り切る。
スカートの由良先輩はどうしても遅れてしまう。
まだ生き残るチャンスはある!
思い切り走る。
走って、あの人のクラスへ…あの人のクラス?
げ、知らねえ。そういえば。
「うふふふふ、抜け出されたのはちょーっとムカついたぞ?」
語尾を可愛く言う由良先輩が追ってくる。
やべぇ、本気で詰んだかも。