クルーザーで本島へ向け引き返すも、雨足は一向に弱まらず、さらにここに来て風も強くなり、海は大荒れとなった。船は荒波の中を木の葉のように漂い、時折打ちつける波の音が船内に鈍く響いた。
「勘弁してくれよ!ちゃんと着くんだろうなぁ!おい!」
井上が誰にともなく怒鳴り声をあげた。由香は恐怖で泣きだし、かすみも頭を抱えてうずくまってしまった。三上と拓海ももはや放心状態で、彼らの運命は操舵室の船長、徳本卓にゆだねられた。
「だめだ!こんな小さな船じゃ…」
徳本が力無く放った言葉は、五人を絶望の淵へ追いやった。
三上は大荒れの暗い海を眺め、その場にしゃがみ込んだ。
大声で泣きじゃくる由香とかすみを「なんとかなるさ」と言いながらなだめる拓海の顔も、恐怖と絶望で真っ青だった。井上だけが徳本のそばで怒鳴り続けている。
「何とかならねぇのかよ!おっさん!何とかしろよ!」
「嵐が収まるのを待つしかないが…収まりそうにないな…なぜか本島との通信もできねぇ…」
「だが、この辺にゃ島がたくさんある、どこでもいいから島に流れ着くことができれば…」
徳本は、海の彼方をじっと見つめ、唯一の救いに全てを賭けた。