ここは駅のホーム。
私はしがない大学生。
私は彼女を待っている。
本来なら、大学に通う為の電車を待っていると言うべきかもしれないが、私の場合、彼女を待つついでに電車を待っていると言った方が正しい。
おそらく、彼女が来ないのであれば私は大学なんぞに行きはしまい。
看護学校に通う彼女は、毎朝私と同じこの電車に乗っている。
というか、彼女がこの電車に乗るというのを聞いて、私の方からわざわざ乗る電車を一本早めた。
私は彼女が好きだ。
と思う。
実を言うと、私は生まれてこの方女性に恋をしたことが一度もないのだ。
当然彼女もいない。
もうじき二十一歳の誕生日を迎える男にとっては甚だ不名誉な事実であろう。
この二十年間で「もしやこれは恋では?」と考えたこともあるにはあった。
しかし、いずれも確認するに至らなかった。
念の為忠告しておくが、私は容姿、性格、頭脳、その他諸々全てにおいて平凡である。
しかし決して一見しただけで二十年間彼女がいないことが頷けるような男ではない。
だからといって、それが不思議だと思う程の男でもない。
要するに、絵に描いたような平凡男なのである。
そして私は、生来恋」という感覚を味わったことがない故に、現在の彼女に対する私の気持ちが、果たして「恋」と呼ばれるものなのかどうか、自分では判断しかねているのだ。