『薬』
彼は、何処か面白がっているような、けどやっぱり艶やかな甘い声色で、そんな唐突な質問を投げかけた。
耳元で囁かれ、冷たい吐息がかかる。
僕は何だか体が震えた。
−−−つまり…、
僕がその薬を、飲むかどうか聞いてるんだ…。
答えるべきか否か、
僕は少し逡巡したものの、黙っていても何も始まらない気がして、
「…飲まない」
と否定の言葉を返した。
そういえば、ほのかに甘い香がする…。
彼の黒紫の髪が僕の顔にかかっている。
近くで見れば見るほど、綺麗で、サラサラとしていて、そして、今まで嗅いだことのない不思議な甘い香がそこからした。
それは心地よいもので、僕は今の状況を忘れて、少しの間、心が安らいでいた…。
『…ふっ…ふははっ!』
不意に、吹き出したような笑い声がした。
最初から予想していたような、彼は笑いながら深いため息をついた。
『…はぁ…やっぱねぇ…それに、あんたもう……鈍感っ…。どうして呑ませるのにこんな体制にしたのか解っていねぇ…。』
彼はゆっくり起き上がった。口元が笑っている。
初めて見る表情だった。
『逃げられないように、両手塞がってるのにさ……でも、じゃぁ、しょうがないかぁ……』
急に、彼は左手に力を込めて僕の髪を引くと−−
僕の唇に自分の唇を重ねた。
唇に、温かくて柔らかい感触がする…。
…
…………えっ……、
あっ……つまり…………
えっ………?
くっ…口移し……っ!?
彼が現在進行形で行っているこの行為を理解するのに、時間はかからなかったけど、
一気に恥ずかしさが込み上げてきた。
自分でも顔が紅くなっているのが分かる。
言い知れぬ羞恥心がして、僕はぎゅっと目を閉じた。
かなり…恥ずかしい……
てっ…!
いやっ!これは夢だっ!
絶対夢なんだ!
だって…ほらっ!
なんで……彼はっ……!
僕っ…男…だし……
これって……いわゆる…
キ……いやいやっ!
違うっ!夢!
絶対!
……自分でも分かる通り、かなり僕は錯乱していた……。
言葉が支離滅裂…。
そして、それを否定するように…彼の舌がはいってきた…