バスで空港に着くと、母はもたもたしている僕と妹の手を乱暴に引っ張った。
とても痛かったが、母のほうが痛そうな顔をしていたため、何も言えなかった。僕の三歳下の妹は、小学二年生にしては、大人びていた。だがやはり子供であり、母の異変には気付いていないようだった。
妹はまだ見ぬ辺境にはしゃいでいた。僕は母の顔を窺いながらピエロのようにはしゃいだ。
飛行機に乗っていたときのことは覚えていない。
ただ僕の覚えていたのは、思い詰めた母の横顔である。記憶にはないが、僕はずっとピエロを演じていたに違いない。僕はピエロを演じていたときに、いったいどんな顔をしていたのだろうか。
空港を出て、青森の地に足をつけた。初めての土地にはテンションがあがるものだ。ガガーリンの浮遊感が僕の心に訪れる。
しかし、その浮遊感は一瞬にして砕けた。
青森の空は蛙のはらわたのようにうねった曇天だった。青森は僕らをはっきりと拒んでいた。僕は気まずかった。