ヤス#96
特にチーフの健さんには手厳しい指導を受けていた。
ジャガイモの皮を剥いていたら、大将と女将が顔を覗かせた。
「おはようございます!大将、女将さん!」
「頑張っているな、ヤス」
「はい!」
「あなた、やっちゃんに何時まで皿洗いをさせておくつもりなの?」
「ハハハ。当分は皿洗いと野菜の皮むきくらいしか出来ないだろう。なあ、ヤス」
「はい!でも、魚を捌くくらいなら…」
「えっ?やっちゃん、魚を扱えるの?」
「はい。元々、漁師ですから…」
「なにーっ!ふざけた事を言うんじゃないぞ!」
健さんが一喝したので、ヤスは黙ってしまった。
「ヤス。今、健が魚を剥いているだろう。お前、あのタイを三枚におろしてみろ」
「はい。わかりました」
ヤスは前掛けをすると、板場に入った。出刃包丁を握ると天然物のタイを選んだ。
「おいおい、そっちは天然物だ。分かっているのか?こっちの養殖を使えよ」
「はい。それくらい分かります。漁師ですから」
ヤスはそう言いながらも、あっという間におろしててしまった。見事な包丁さばきだった。皆が目を丸くして見ている。
「ヤス。刺身にしてくれ」
「はい、大将」