ヤス#99
「女将、この若者は何者だね?板場につくには若過ぎるようだが…」
「ほほっ…田中さん…とりあえず、お刺身でも注文してやってくださいよ」
「ほう…造れるのかね。じゃあ、刺盛を頼むよ…えーと」
「ヤスです。平井康生と言います。宜しくお願いいたします」
ヤスはいんぎんに頭を下げると、見事な包丁さばきで刺盛を造りあげた。
「お待ちどうさまです」
「ハハハ。全然待っていないぞ。見事なものだな、平井君」
「恐縮です」
「平井君って言ったわね…あなた、おいくつなの?」
「はい。十八です。ここに5ヶ月前からお世話になっています」
「そう…その若さでね…どこかで修行されたの?」
ヤスは閉口した。これから同じ質問をされそうだ。ヤスがモジモジしていると、健さんがやってきて、事情を話してくれた。
その日は三組の常連客がヤスの前に座ったが、ヤスは全ての客名を覚えていて皆を驚かした。
仕事が終わると、ヤスはオーナーの香月からよばれた。
家の方に来いと言う。奥のドアを開けて、少し歩くと香月の住居につながっている。ヤスは前掛けを解いて玄関を開けた。
「こんばんは。平井です」
「おう。上がって来い。ヤス」
「失礼します」