利便さと雑然さとが程良くマッチされたデスクの上で両手を組みながら、アンドレア=ティレ=ロッツィが試みた弁明は、悪意や権謀とは無縁そうだったが、歯切れの悪さを克服するには余りにも絶望的だった。
『…それは分かるんだ。だが…私も詳しくは知らされて無くってね…本当に君達には迷惑をかけて申し訳ないと思っているよ』
分厚い煙幕に包まれた逃げ口上を聞いて、己の気遣いの無さに恥じ入って涙するジョヴァンナ=バウセメロだったら、最初からここに足を踏み入れはしなかった。
『私の欲しいのは真実です。謝罪ではありません!』
『まずはドアを閉めてくれたまえ。外に漏らして余計な心配を与えたくない』
部長は観念するしかなかった。
『良いかね?良く聞きたまえ―我が社は買収された―M&Aを喰らったのだよ』
口調と表情とを重苦しくしながら告げられた説明は、ジョヴァンナの思考と吐息と言葉に短期だが深刻な断絶を与えるのに充分だった。
三歩だけ後退りするのに、たっぷり一五秒もかけてから、
『どこの傘下に…入ったのですか?』
声帯を強ばらせながら、ジョヴァンナはどうにかそれだけを聞き返した。
『ギャラクシー=キャスティング&ブロードバンド社だ』
ややぶっきらぼうに返答を与えたアンドレア=ティレ=ロッツィは、もう隠してもしょうがないとばかりに、ゆっくりと頭を左右に振ってから、
『全くいきなりの話だったんだ。我が社の株式が最初四つの投資会社や個人資本に買収攻勢を懸けられてな。いずれも中央域のファンドだよ―あれよあれよと四三%迄占有されてしまった…』
部長の口から述べられたのは、生馬の目を抜く中央域文明圏の金融市場にパレオス経済が容赦無く組み込まれ、血も涙も無い投機業者達の格好の餌食にされ始めていると言う、戦慄すべき事実であった。
『仕方なく我が社役員会は、防衛策として自己買収を進めると共に、保有価値総額の一0%上増しと言う条件を出して、彼等に買い戻しを提案したんだ―すると、彼等は奇妙な代替案を出して来た。両者の敵対関係を解消したい。ついてはお互いが歩み寄り、共同の持ち株会社を設立したい、と―まあ、ここまでなら、我が国でも良くある話だ。我が社はその時点で保有率を三八%にまで高めていた。相手は四三%÷四だろ?充分に勝算有りと、こちらは踏んでいたんだ…』