わたしはずっとここにいた
最初は若い一組の夫婦で、シアワセそうに畑を耕していた。
そして子供がうまれて賑やかになって、数年後、旦那様は、汚い緑っぽい野暮ったい服を着て、たすきを掛けて、万歳されながらいなくなった。
旦那様はもう二度とかえってこなくなった。
そのあと、奥様とお子様たちは、わたしから出ていった。
次は年をとった男だった。やさしく、やさしく、やさしすぎるくらいにやさしい男で、わたしは彼を翁と呼ぶことにした。やはり畑を耕して、わたしの存在に気付いていて、いつもわたしの分のご飯を縁側に備えてくれて、ご飯を食べながら翁女の遺影とわたしに、いつも語り掛けていた。 だが、翁は死んだ。 ひっそりと、わたしのために買った髪飾りを嬉しげに枕元において『あしたあげるね』と、言ったきり眠ったまま死んだ。
それから何年もひとはいなかった。