「大丈夫か!?」
井上が心配そうに近づく…
「大丈夫…だけどなんだよこれ…」
「拓海くん…」
隅で震えていたかすみと由香が、おそるおそる拓海に近づこうとしたその時。今まで由香達が座っていた場所の壁が、ズズズ…という音と共にせり上がり、真っ暗な“闇”が現れた。
「なんだ?」
五人が暗闇に目を凝らしていると、その闇の中から、ヴォー…ヴォー…と言う、荒い息づかいのような音と、複数の足音のような物が聞こえ始めた…
「なんかくるぞ…」
五人は固まって、その音の方をじっと見つめた…そして…
「…牛?」
音の正体は、なんと牛だった、真っ黒い肉牛が、三頭、牢屋の中に入ってきた。
牛達は、一直線に五人の方に向かって進んだ。
三上の横を通り過ぎ、かすみと由香を払いのけ、井上には見向きもせずに、最初の牛が拓海の前にたどり着いた。他の二頭も、次々に拓海の元へ迫っていく…
「なんだよ…来るなよ!こっちくんなよ!」
拓海は牢屋の中を逃げ回ったが、遂に追いつめられてしまった。
「拓海!」
「拓海君!」
三上達からは、巨大な牛の体のせいで拓海の姿は確認できない。