翁がいなくなったあとのわたしは、だんだんと薄汚れていった。翁からもらった髪飾りも煤けて、黒ずんで立派だった綾錦の着物も、きれいに櫛けずられた黒髪も油と垢で汚く汚れた。 草履を履いていた足はいつのまにか裸足で、傷だらけになった。
仲間からは「貧乏神」とあだ名をつけられた。
こんなみすぼらしい格好の座敷わらしはいないからだそうだ。わたしは甘んじてそれを受けた。
それから何十年もたった。
「やぁ、いいうちだね」 突然わたしの中に男が入ってきた。髭面の、ひょろっとした中年の男だった。 わたしは階段の隙間から男を覗き込んでいた。ちょっとだけ翁ににてる。
男はゆっくりと視線をあげて、わたしと視線をあわせた。翁とおんなじ、やさしくてやさしくて、ただやさしいだけの笑顔を浮かべていた。
「こんにちは。君のお家に住むけど、いいかな?」
なんだかいきなり涙が出て、ただ、うんと言った。…うん、いいよ。いっしょに住もう。もうさみしいの嫌だもん。ひとりは嫌だよ。